当クリニックのアレルギー診療について
 1.概要

 小児科、アレルギー科の専門医として、アレルギー疾患の発症予防を大きな目標に掲げ診療を行っています。アレルギーを引き起こす素(アレルゲン;抗原)は、お子さん各々で異なります。アレルギー疾患の診断はエピソードからなされ、診断よりも大切なのがアレルゲンの確定です。アレルゲンが判明すれば、治療は半ばと考えられます。また、アレルギー疾患治療には、生活療法(生活スタイルや食事、環境の調整)が必須であり、それゆえ、十分な時間をかけて指導を行っています。
 2.乳児のアレルギースクリーニング検査を実施

 鶏卵アレルギー等の食物アレルギーは、乳児期早期に出現します。早期に発見することで増悪、その他のアレルギー(ダニアレルギー、気管支喘息や皮膚炎など)の発症予防あるいは症状を軽減することも可能です。また、検査時点で感作が認められない乳児に関しては、離乳初期より鶏卵やピーナッツ等の摂取で当該アレルギーを防ぎ得るのではないかの報告もあります。 当クリニックでは、プリックテストと呼ばれる皮膚テストで乳児のアレルゲン感作の有無を確認しています。血液による検査とは違い、生後4か月頃から乳児の食物アレルゲンの検出が可能です。
 3.アトピー性皮膚炎とアレルギーの病気の発症予防に取り組んでいます。

 アレルギーは、ご両親から受け継いだアレルギー(アトピー)体質と皮膚や気道の過敏性(弱さ)の上に、身の回りの環境(母体環境、食事環境、生活環境など)の影響を受けて発症してきます。 アレルギー体質を増悪させず、アレルギー症状を出現させない対策として、現段階では、腸内環境を整えることでアレルギー体質を改善させる得る可能性が考えられます。したがって、赤ちゃんが生まれた早期から乳酸菌類を増やすべく、経口摂取する。もう一つは、アレルギー感作が食物アレルギーにおいても、皮膚を通して起こり得ることから、赤ちゃんの皮膚バリアの健康維持がダニなどの環境アレルゲンに対する感作を防ぐだけでなく、食物アレルギーの予防、改善にも繋がります。 当クリニックでは、産まれたら、すぐにスキンケアの開始と乳酸菌製剤の投与を行うアレルギー発症予防対策を希望者に実施しています。これらの対策でかなりのアレルギー発症予防あるいは軽症化につながるものと考えます。

❶産まれた、スキンケア:皮膚の角質層のバリア機能と水分保持機能の異常がアトピー性皮膚炎における重要な発症・悪化因子の一つと考えられます。実際、新生児から保湿剤でスキンケアすることで、その後のアトピー性皮膚炎の発症率の低下が報告されています。お母さんや赤ちゃんの兄弟にアトピー性皮膚炎があったり、皮膚の弱い方がいる場合には、発症前からスキンケアを丁寧に行うことが、赤ちゃんの皮膚の健康を保つだけでなく、その後のアレルギー症状の発症や軽症化に、とても大切です。 

➋産まれた、乳酸菌の投与の開始:ビフィズス菌などの乳酸菌には、従来から感染予防作用や免疫刺激作用、ビタミン合成などヒトにとって有益なものであることが知られていました。最近では、腸内の細菌のバランスが、ビフィズス菌などの善玉菌が優位な場合には、アレルギー体質がアレルギーを起こしにくい方向になることも判ってきました。 アレルギー体質の改善のために、腸内の善玉菌を優位に保ちながら成長することで、赤ちゃんのアレルギー体質を悪化させないことも可能です。 

 ❸環境調整:赤ちゃんの育つ環境にも配慮しましょう。おなかに宿ったときから、いや 宿る前 からスタートです。無理なく続けられることが大切です。赤ちゃんの身の回りのアレルゲン(ダ  ニ、ホコリ、カビの他、食物アレルゲンも含む)の調整です。詳しくはホームページ内のアレルギ ー疾患の解説をご覧ください。
4.舌下免疫療法実施中

 スギ花粉によるアレルギー性鼻炎患者やダニアレルギーによるアレルギー性鼻炎患者に対する舌下免疫療法を実施しています。舌下に薬剤を1分間保持できる5歳頃から可能です。 舌下免疫療法とは、舌下に原因アレルゲンであるスギアレルゲンあるいはダニアレルゲンエキスを、低濃度、少量から投与し、徐々に増量、高濃度へ移行させ、最高容量に到達後、その量を維持容量として、連日投与する治療法で、当該アレルゲンに対する過敏性を減少させる根治療法の一つです。 実際には、スギ花粉症では、シーズンオフ(611月頃)に治療を開始します。ダニアレルゲンに対しては、そういった制限はありません。少なくとも2~3年継続することが必要です。 また、アレルゲンエキス服用直後の食事・飲酒の禁止、服用2時間は激しい運動や入浴を避けるなどの制約もあります。 治療効果は、治療薬剤の減少などを含め、7080%と報告されています。当クリニックでの検討では、さらに良好なものと考えます。副反応については、アナフィラキシーの可能性は、完全には排除できませんが、頻度の高いものとしては、口内局所の反応や蕁麻疹などの皮膚の反応が主です。注射による皮下免疫療法と異なり、痛みを伴わないため、小児では、特に継続治療が期待されます。

5.通常の特異IgE抗体と合わせ、アレルゲンコンポーネント検査も行っています。

 アレルゲンを特定する検査として、特異IgE検査が広く用いられています。特異IgEはスギ花粉やダニ、卵、牛乳などアレルギーの原因となる抗原(アレルゲン)との反応性をみるための検査です。 アレルゲンには多数の蛋白質が含まれていて、特異IgEは個々の蛋白質と反応します。特異IgEと反応し、アレルゲン活性を有する蛋白質のことをアレルゲンコンポーネントといいます。特異IgEの多くは花粉や食品などアレルゲン原料から抽出した様々な蛋白質(粗抽出アレルゲン)に対するIgEを測定していますが、粗抽出アレルゲンの中には複数のアレルゲンコンポーネントが含まれており、感作の原因や感作経路によって臨床症状に差異が出ることが判ってきました。 このアレルゲンコンポーネントに対する特異IgEを測定する検査をアレルギーコンポーネント検査といい、実用化が進んでいます。 例えば、牛乳の場合、乳蛋白は、カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなどから構成されています。それぞれの蛋白の内のどの蛋白(アレルゲンコンポーネント)に対して反応するかを各蛋白に対する特異IgEを測定することができます。それらを検討することでアナフィラキシーを起こしやすいかなど症状の出方を推測するなどに役立ちます。現在、小麦、大豆、ピーナッツやクルミ、カシューナッツ、ラテックスなどに対するアレルゲンコンポーネント検査が可能です。

6.アレルギー疾患に対する生物学的製剤による治療

 小児のアレルギー診療において生物学的製剤が最も使用されている疾患は重症喘息で、現在抗IgE抗体(オマリズマブ;6歳以上)や抗IL-5抗体(メポリズマブ;12歳以上)があります。抗IgE抗体は、ダニなどの通年性の吸入アレルゲンに感作された患児に対して、抗IL-5抗体は末梢血好酸球の増多を示す患児に対して使われます。オマリズマブは、12歳以上の季節性のアレルギー性鼻炎や特発性の慢性蕁麻疹にも使用されます。もう一つデュピルマブは、ヒト型抗IL-4/13受容体モノクローナル抗体で、気管支喘息(12歳以上)やアトピー性皮膚炎(15歳以上)の発症機序であるIL-4IL-13などのTh2サイトカインを抑制することで効果を発揮します。このように今後続々とそれぞれの病態に関与する物質を制御する生物学的製剤が開発され、臨床に応用されるものと考えられます。様々な治療選択肢のなかから適切な治療をオーダーメードし、そのお子さんに適切な治療が提供できるものと考えます。