⑭インフルエンザ
はじめに
インフルエンザは、インフルエンザウイルスの感染により生じる風邪(主に気道に感染)の一つ。一般の風邪症状と違って、重症化することが多く、注意が必要である。ときに肺炎を起こしたり、脳炎・脳症を起こし、後遺症を残すだけでなく、死に至ることもある。また、感染性が強く、流行を起こす。
疫学
流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。わが国のインフルエンザの発生は、毎年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1~3月頃にピークを迎え、4月頃に消息するが、夏季に患者が発生することもある。
インフルエンザ死亡者数も2005年の流行では1800人以上がインフルエンザが直接の死亡原因とされ、その関連では1万5000人以上がなくたったと報告されています(超過死亡)。
インフルエンザウイルス
A、B、Cの3型があり、A型とB型が流行する。ウイルス表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、A型では、HAは15種類、NAは9種類の抗原性の異なる亜型があり、これらの様々な組み合わせを持つウイルスが、ヒトをはじめブタやトリなどに広く分布している。突然別の亜型のウイルスが出現すると大流行する。
症状
インフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1週間の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強い。とくに、高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者では、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、入院や死亡の危険が増加する。小児では中耳炎の合併、熱性けいれんや気管支喘息を誘発することもある。
近年、幼児を中心とした小児において、急激に悪化する急性脳症が増加していることが明らかとなり、毎年50~200人のインフルエンザ脳症患者が報告され、その約10~30%が死亡している。
診断
流行状況および症状から診断される。感染時の典型的な症状は、①突然の発症、②38℃を超える発熱、③上気道炎症状、④全身倦怠感等の全身症状である。外来診療において、咽頭拭い液を用いたインフルエンザウイルス抗原検出が可能であるが、偽陰性もあることを考慮する必要がある。
治療
ノイラミニダーゼ阻害薬[ザナミビル;リレンザ、オセルタミビル;タミフル、ラニナミビルオクタン酸エステル;イナビル、ペラミビル水和物(注射薬);ラピアクタ]は、A型にもB型にも有効で、耐性も比較的できにくく、副作用も少ないとされており、発病後2日以内に投与(注射)すれば症状を軽くし、罹病期間の短縮も期待できる。
対症療法としての解熱剤は、小児ではアセトアミノフェン(カロナールなど)の使用に留める。また、肺炎や気管支炎を併発して重症化が予想される患者に対しては、抗菌薬の投与が行われることがある。
予防
予防としては基本的事項として、流行期に人込みを避けること、それが避けられない場合などにはマスクを着用すること、外出後のうがいや手洗いを励行することなどが挙げられる。現在わが国で用いられているインフルエンザワクチンは、ウイルス粒子をエーテルで処理した不活化ワクチンである。感染や発症そのものを完全には防御できないが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されており、高齢者に対してワクチンを接種すると、接種しなかった場合に比べて、死亡の危険を1/5に、入院の危険を約1/3~1/2にまで減少させることが期待できる。現行ワクチンの安全性はきわめて高いと評価されている。わが国においては、インフルエンザワクチンは一部の高齢者を除き、任意接種である。また、原則として発症者の同居家族や共同生活者で、しかも特殊条件の者を対象にリン酸オセルタミビル(タミフル)の予防投与が承認されたが、接触後2日以内の投与開始を条件としている。
集団生活停止期間
インフルエンザ罹患時の出席停止期間は、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまでとなっています。